2-Paris Café



第2回パリカフェを以下の要領で開催いたします

日 時: 2019年1月11日(金)18h~20h

 « Penser le problème de la cognition minimale »
「最小の認識を考える」

今回はミニマル・コグニション(minimal cognition)という問題について考えます。これは認識を構成する最小要素は何なのかという問いに関わるもので、最初の認識能が進化のどのレベルで現れるのかという問題でもあります。この問いに対して、研究者や哲学者はいろいろな基準を出しています。しかし、それぞれの基準の枠内では認識能を有する生物とそうでないものとの境界は比較的明瞭ですが、どの基準を採用すべきなのかというコンセンサスがないように見えます。この問題をどのように考えるべきなのかについて講師が概説した後、議論を展開していただきます。今回、パスツール研究所のマルク・ダエロン博士(元免疫部長)にも議論に加わっていただくことになりました。なお、参加予定者にはカフェで取り上げる仮説に関する論文(Yakura, H. A hypothesis: CRISPR-Cas as a minimal cognitive system. Adaptive Behavior, in press)を前もってお送りいたします。この問題に興味をお持ちの方の参加をお待ちしております。

Nous allons discuter du problème de la cognition minimale (minimal cognition), qui concerne les exigences minimales pour la cognition ou quel organisme dans l’arbre de vie a cette capacité. Il y a beaucoup de propositions pour la condition minimale, qui vont du centrisme cérébral aux réactions biochimiques, mais un consensus n'a pas été atteint. Cette fois, le Dr Marc Daëron de l’Institut Pasteur (ancien directeur du Département de l’immunologie) va participer à la discussion. En espérant vous y voir. Merci !


講 師: 矢 倉 英 隆 
(サイファイ研究所ISHE代表 

Hidetaka Yakura, MD, PhD, DPhil
Directeur, Institut pour la Science et l'Existence Humaine
 

Ozanne conseil
12, Rue du Bouquet de Longchamp, 75116 Paris
Métro : Boissière (ligne 6) ou Iéna (ligne 9)




参加費 : 一般 10€; 学生 無料

会終了後、懇親会を予定しております

参加希望の方は、she.yakura@gmail.comまでお知らせください。 

ご理解とご協力をいただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。

(2018年11月29日)




 第2回パリカフェのまとめ

 免疫と認識、特にミニマル・コグニションの問題は東京と札幌で開いたサイファイ・カフェSHEで取り上げ、大学でのセミナーでも話したことがある。ここ2年ほど、折に触れて考えてきたことになる。今回は、免疫学者のダエロン博士にも参加いただいて意見交換ができればと考えて開催した。
 最初からこの問題について考えようとしたのではなく、免疫の本質を探る過程でこの問題があることに気付き、免疫での解析が適用できるのではないかというところに行き着いた。本質の定義は難しいが、仮に「ある範疇に属するすべてのメンバーに共通する最小の特徴」として解析を進めた。免疫の場合には免疫システムを持つすべての生物に共通する最小単位を検索することになる。そうすると、例えば、ヒトやマウスという限定された生物を研究するだけでは本質には辿り着かないことになる。必然的に進化の跡を辿る系統発生の解析が不可欠になる。その場合、免疫システムを構成する構造は問題にならず、共通する機能的特徴を規定しなければならなくなる。解析の結果、細菌からヒトに至る生物が抗原の認識、その情報の処理、それをもとにした反応、そしてその経験の記憶という4つの機能的要素を持っていることが明らかになった。細菌の免疫を担うと言われるCRISPR-Casがこれらすべての機能的要素を持っていることは驚きである。話がここに至ると、昔から言われている免疫システムと神経系との相似性が想起される。しかし、すべての生物の生存には認識能が不可欠であると考えられているが、細菌には神経系はない。それでは何がそれを担っているのかと考えた時、免疫システムが浮かび上がってくる。
 この段階でミニマル・コグニションということが議論されていることを知ったのである。ある過程が認識と言われるための最低の条件は何か、という問いである。現在までにいろいろな基準が提唱されている。最も厳しいのは、脳やニューロンに関連した構造と機能がなければならないとするもので、最も緩い基準は生化学的反応や遺伝子調節ネットワークなども含めるというインクルーシブな基準である。この両極端の間に、例えば、走化性のように反応が運動として現れるものがある。これまでの解析では、認識を「情報の獲得、保存、処理、利用」として広く見ている印象があり、これは免疫システムの機能的要素と完全に重なる。この中で、重要だがしばしば軽視されているのが、記憶(情報の保存)である。これら4要素が揃っている最小のものを探すとCRISPR-Casに行き着いたのである。これを受け入れると、評価は分かれるものの生物学のパラダイムであるネオダーウィニズムに対して出されている批判にも答えることができる。逆に言うと、この批判に答えるにはこの基準を受け入れなければならないということになる。
 ダエロン博士からは、言葉の定義の問題が指摘された。例えば、そもそもコグニション(認識)とは何を言うのかという問題がそれで、哲学が重視する点である。これは「もの・こと」を考える上で常に意識しなければならないことだろう。しかし、実際に一つの言葉に対応しようとすると、それが一大事業であることに気付く。この観点からわたしがやっていることを見直すと、まさにこの範疇に属する事業をやっていることが明らかになってくる。その意味でも貴重な時間となった。
 お忙しい週末の夜にお時間を割いて参加していただいた皆様に改めて感謝いたします。次回の開催は今のところ未定ですが、予定が決まりましたらこの場に掲載する予定です。今後ともよろしくお願いいたします。


 参加者からのコメント

● Merci à toi. C’était 1) très intéressant et 2) très agréable de parler de science et de culture japonaise.
(ありがとう。科学と日本文化について語ることは非常に興味深く、心地よいものでした。)

● 今回のカフェでは、共通の理解から対話をスタートさせることを狙いとした際の選択の広さに触れました。ひとつの言葉が包み込む意味が広いほど、コミュニケーションの幅が広がると同時におおまかな了解でもいかに物事が進みうるか、ということにも思い当たりました。お互いの了解を明確にするためには、文脈として我々の周りに纏っている事柄を引っ張り出してコミュニケーションの対象に持ってくるという作業が必要でしょうか。コンテクストをコンテンツに変化させるということは、コミュニケーションの材料としての情報と内的な認識や思考があたためる記憶との対比にも通じるのではないかと感じました。


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(2019年1月11日)





 



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